KOF98はなぜ伝説なのか——医師の分析が「戦略コンサル級」だった

KOF98はなぜ伝説なのか 医師の分析が戦略コンサル級だった

こんにちは、オッチ(@OcchiGames)です。

先日、YouTubeでとんでもない動画を見つけました。オンライン診療で有名な「クリニックフォア」の公式チャンネル。普段は医療・健康情報を発信しているチャンネルに、CMO(最高医療責任者)の医師が55分間ひたすらKOF98を語り倒す動画が上がっていたのです。

「なぜ医療チャンネルでKOF98……?」と戸惑いながら見始めたのですが、途中から完全に姿勢を正しました。これは趣味語りの皮をかぶった、戦略コンサルのプレゼンです。今回はこの動画の凄さを紹介させてください。

目次

どんな動画か

語っているのはクリニックフォアグループのCMOを務める医師の方。中学1年でゲーセンデビューして以来のKOF98プレイヤーで、今は8歳のお子さんに格ゲーの英才教育を施しているそうです。

動画の構成はこうなっています。

  1. 対戦格闘ゲーム30年の歴史の整理
  2. KOF98が最高傑作である理由の論証
  3. SNKとeスポーツ業界への経営提言
  4. リメイク案「KOF98オリジン」の具体的な設計

お気づきでしょうか。これは趣味語りの構成ではなく、「市場の歴史 → プロダクトの強み分析 → 事業戦略 → 実行プラン」という事業計画書の構成です。

前半:「KOF98最高傑作論」の中身が面白い

動画全体を通して、解説の骨子は「KOF98は格ゲー史の進化がちょうど飽和した瞬間の、最良の均衡点にある」という一点に収束します。

コンボの長さを認知科学で説明する

個人的に一番唸ったのがここです。98のコンボは基本「通常技2〜3発+(中継技)+必殺技または超必殺技」で完結します。この長さを、話者は短期記憶の研究——人間が瞬間的に保持できるのは7±2個、意味を理解しながらなら4±1個——で説明するのです。

つまり98のコンボは「観客が何が起きたか認知できる上限」にぴったり収まっている。後年の格ゲーがゲージを吐きながらコンボを伸ばす方向にしか進化できず、初心者や観客を置き去りにしたという指摘とセットで、「なんとなく見やすい」が科学の言葉に翻訳されていきます。本業が良い方向に出ています。

「ブランドイメージとシステム的ピークの一致」説

本人が「オリジナルの学説」と呼ぶ分析もあります。ストリートファイターは、システムの洗練のピーク(3rd・1999年)と、世間のブランドイメージ(リュウ・ケン・ベガが揃うスト2系=スパ2X・1994年)が別の作品に割れている。一方KOFは、「KOFといえば京・庵」というブランドの顔と、システム完成度のピークが98という一作に共存している——という指摘です。

言われてみれば確かに、この「一致」を持っている2D格ゲーはほとんど思い当たりません。KOFだけが持つ歴史的な強みだという結論には唸らされました。

3on3を「ゲーセンの経済」で語る

4ボタンのシンプルさ、4種類のジャンプとランによる高速な攻防といった定番の論点も押さえつつ、面白いのは3on3の分析です。1コインで最低3回戦えるのは、インカム効率の面ではゲーセン泣かせ。でもお金のない子供には最高だった。そしてネット対戦が主流の現代では「3キャラ覚えるのがしんどい」と、同じ仕様の価値が逆転している——時代の文脈で仕様を評価する視点が一貫しています。

「必須スキルを覚えたら全キャラ使える」ラーニングカーブ論

必殺技とキャンセルという必須スキルを身につけた時点で、38人(裏込みで約50人)のほぼ全キャラが「それなり」に動かせるようになる。根本から動かし方を覚え直す必要のある特殊キャラが1人もいない。この習得ゴールの見えやすさこそが裾野を広げたという論で、後年の「上級者向けテクニカルキャラ」がライト層を遠ざけた流れと対比されます。

後半:SNKへの経営提言が始まる

「98を将棋にしろ」

後半、動画は突然コンサルになります。核は、eスポーツの構造問題の指摘。新作が出るたびに古参は習得コストに疲れて離脱し、ファンは作品ごとに分散する。ならば新しさを追い続ける呪縛から降りて、将棋やチェスのように「ルールの変わらない伝統競技」を持て、という提案です。

大会では最新作を最高賞金に据えつつ、98を常設の伝統種目として併設するハイブリッド案。序盤に出てくる「全ての対戦格闘ゲームの歴史はストリートファイター2への膨大な注釈に過ぎない」(動画内より)という哲学ネタの引用が、「完成しているものは競技として磨け」という結論への長い伏線になっている構成も見事です。

98UMの失敗分析と「KOF98オリジン」案

98UMについては「変えすぎて事実上の別ゲームになり、ファンを分散させて無印のプレゼンスを下げた」と、長期視点では失敗だったという評価。ここに頷くか首をひねるかは人それぞれだと思いますが、その反省を踏まえた再リメイク案が具体的です。

  • ドット絵のトンマナは維持し、解像度だけ現代水準に上げる(音楽も余計なアレンジ禁止)
  • 技の性能・判定は一切いじらない。バランス調整はダメージ数値のみ
  • ルーレットで裏キャラが出ない等、誰もが認める不評仕様だけ改善
  • ボスチームなどの追加キャラは初版に入れず、後日の配信で馴染ませる
  • 調整前には有識者ヒアリングを。ただしコアの10人程度まで(特に中国勢に、と)

さらにアドバンス/エキストラ問題には「水泳の自由形方式」を提案。種目そのものを分けてしまえば優劣論争は消える、エキストラ同士の対戦にはエキストラなりのキャラランクが生まれるはずだ、と。確かに「両者エキストラ」の対戦動画はほとんど出回っていません。98のポテンシャルは現役勢でさえ引き出しきれていない、という指摘にはハッとさせられました。

ランダムセレクトの種目化案も、「必須スキルを覚えたら全キャラ使える」という98の特性の上に載っていて、前半の分析と後半の提案がきれいに繋がっています。ちなみにガチセレクト時のトップキャラは京・庵・ちづるであるべき(ブランドイメージとの一致)という主張も、一本筋が通っています。

事実として面白かった話

動画内で語られていた小ネタも拾っておきます。

  • 現在のSNKは、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子(90年代SNKゲームの大ファンで、話者と同い年だそうです)が設立した財団系の会社が筆頭株主
  • 話者は2026年初頭、SNKの問い合わせフォームに「98をリバイバルすべき」という長文の提言を送信。その数ヶ月後、SNKワールドチャンピオンシップの種目に98無印が突如追加されたとのこと。本人は「偶然かもしれない」「エクサアルカディア移植のPRかも」と留保しつつ語っていますが、この語り口も含めて楽しい
  • タニタからKOF98がプレイできる体組成計が出ている、という話も

この分析力はどこから来るのか

55分聞き終えて整理すると、この動画の説得力を支える要素は4つありました。

  1. 構成力。ほぼ一人語りで歴史→論証→提言→実行案と積み上がり、脱線がない
  2. 他分野の枠組みを持ち込む力。哲学、認知科学、サッカーの観戦性(誰でも分かるから裾野が広がるという論)、水泳の自由形
  3. 反論を自分から潰す誠実さ。「思い出補正では?」に先回りして「当時はボコボコにされた記憶しかない。一番勝てたのは2000」と自己検証する
  4. 一貫した判断軸。すべての評価が「コアの快楽」ではなく「ライト層と観客を含めた裾野の最大化」で下される

定量データはほぼなく、根拠は本人の観察と98への愛です。それでも「愛 × 職業由来の分析枠組み」の掛け算がここまでの推進力を生むのかと、格ゲー語りの新しい型を見た気がします。

まとめ

55分は長く見えますが、体感はあっという間でした。最後がしれっと自社の採用告知で締まるのも含めて面白い動画です。98勢はもちろん、「KOFはやってたけど98はもう昔のゲームでしょ」という人にこそ、倍速でもいいので見てほしい一本です。

【格ゲー最高傑作】なぜ「KOF98」は伝説なのか?(YouTube・55分)

クリニックフォア(オンライン診療・公式サイト)

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